記憶の底に 第12話


海外へ亡命していた団員が黒の騎士団復活の情報を得、次々と集まってきた。
科学班もそろい、KMFの改良も成され、紅蓮も飛翔滑走翼を背に空を自在に飛び回れるようになっていた。
アッシュフォード学園はギアスを使い内部制圧済み。
すべてを知ったミレイ達だが、何食わぬ顔で通学している。
最悪の事態に陥った時、機密情報局の者たちに彼らを守るよう命令済みだ。

「さて、準備は整った。まずはV.V.を討ちに行く」

ルルーシュはC.C.にそう告げた。

「どうするつもりだ?」

大体どこに居るかも解らないだろう?

「お前、俺に言ったな?遺跡を使えば他の遺跡に移動できると。確かにどの場所に響団が潜伏しているか解らないが、ギアスとコードの研究をしている以上、遺跡に近い場所にいるはずだ」

ルルーシュはゼロの衣装をまとい、黒の騎士団を引き連れ神根島へ渡った。
そこは、スザクがルルーシュを捉え、カレンがルルーシュを見捨てた場所。
二人にとって嫌な思い出の残る場所のため、自然と表情は硬くなり、後ろめたさから知らずルルーシュから目を逸らしてしまう。
他の面々は、こんな場所に何があるのだと困惑した表情だった。

「C.C.」
「ああ、解っているよ」

C.C.はKMFから降り、古代の遺跡らしき壁画の前に立った。
確かに扉に見えなくもないが、それが開くとはどうしても思えない。
だが、C.C.が壁画に手を当てると、彼女の周りの気流が変化し、無風のはずのこの場所で彼女の長い髪が風でなびいた。
そして次の瞬間、大きな岩の壁画だったはすのその文様に沿って赤い光がさし、音も無く壁はゆっくりと開いていった。
あり得ない光景に皆が見入っていると、KMFに乗り込んだC.C.が「さっさと入れ」と、感情のこもらない声で命令した。
ゼロの乗る蜃気楼を先頭に、零番隊、藤堂と四聖剣、スザクとジノ、そしてC.C.が扉をくぐると、扉は音を立てること無く静かに閉じた。
その光景を残された騎士団員は呆然とした表情で見ていたが、何人かは機体から降り、その扉に手を触れた。やはりただの壁画だで開くはずがないと、困惑した表情で遺跡を見上げた。
遺跡の中は、何も無いとしか言いようのない不可思議な空間だった。
かろうじて地面と呼べる場所はあるが、天井も壁もなかった。
何だこの場所はと、不安が胸に広がった時、突如大地にはみずみずしい草木が生い茂り、緑あふれる広大な平原となった。上を見上げれば先程まで無かった綺麗な青空が広がっている。

「・・・これは・・・」

ゼロは、呆然とした声を上げた。

「殺風景だったから少し見栄えを良くしただけだ。先ほどと場所は変わっていない」

ゼロの呟きに、C.C.は何事もないように答えた。

「ゼロ、空を見ろ。あれが、神だ」

空を見上げると、青い空には先程まで無かった大きな球体が姿を表した。
本来空にあるはずがない異質な物体。
まるでギアスの契約の時にみたあの光景。

「これが、神だというのか」
「そう、これが神だ。Cの世界、輪廻の輪、集合無意識と呼ぶ者もいる。全ての命が生まれ、そして死んだ後に還る場所だ」
「皇帝はこの神を殺すつもりなのか」
「そうだ。みろ、ゼロ。あれが神殺しの武器。アーカーシャの剣だ」

C.C.が指し示した場所の景色が一変し、そこには奇妙に蠢く螺旋が姿を表した。天へと登っていくそれは、歪ではあるがDNAの二重螺旋を連想させる形だった。
間違いなくその切っ先は、あの球体を目指して進んでいる。

「この神が消えるという事は、死んだ魂は戻る場所を失い、新たな命が産まれる事は無くなる、という事か?」
「さあ、どうだろうな。新たな神となったシャルルが、この神と同じシステムを作り出したなら今まで通り命は紡がれるかもしれない、それはやってみない事には解らない話だ」
「その新たなシステムの中にコード、そしてギアスを埋め込まなければ、お前は人間に戻れる、と」

不老不死の守護者というシステムを消し去れば、C.C.は元通り人間に戻れる。
死を迎えることが出来る。
そのためにC.C.は協力していたのだ。

「そうだな。だが、それも可能かどうかは解らない話だ」
「神が死んだ時点で、地球上のすべての生命が消え去る可能性もある。どちらにせよ、神殺しを認める訳にはいかない。C.C.、出口を開け」
「解った。ではまずは近い場所からにするか?」
「どこだ?」
「中華連邦だ」
「開け」
「解った」

再び、扉に光が走った。そして扉は音も無く開く。
ゼロを先頭に表に出ると、そこは先ほどの神根島とは違う遺跡の中だった。

「この中華連邦の遺跡には、古代人が暮らしていた住居の跡地もあるから内部は迷路のようになっている。はぐれるなよ、目的の場所はこの上だ」

C.C.を先頭に、KMFは滑る様に前進した。
大きな遺跡だった。
KMFが難なく走ることのできる広さと高さがあり、階段もまるで巨大な生物が上り下りできるような広さがあった。
かつてここで栄えた文明は、その大きさの物を移動させていたという事だろうか?
上へ上へと登ってくと、C.C.が言っていた地下居住区に出た。

「当たりだゼロ。・・・響団施設だ」

突然現れたKMFに驚き、人々が霧散するのが視界に入った。

「全員に告げる。ここに住む者たちは皇帝の投薬実験の被検体。皇帝に操られた傀儡だ。全員暗殺技術も仕込まれている。ガス状の薬も研究されていることから、いつ我々も傀儡にされるか解らない。決してKMFから降りるな」

KMFに乗っていれば毒の類は意味を成さない。
ギアスという名の毒もまたKMF越しでは意味の無いものが多い。

「我々の標的は10歳ほどの長い金髪の少年だ。注意しろ、見た目に騙されるな」

人々を蹴散らしながら、長い金髪の子供を探し始めたその時、遺跡の壁を破り、1騎のKGFが現れた。

「チッ!ジークフリートか、厄介な!」
「あれは、あの時私が海底に沈めた機体・・・!くっ」

ゼロの機体を攻撃してきたジークフリートに、C.C.は体当たりをし、軌道をそらした。
だが、ジークフリートはすぐに体制を立て直し、蜃気楼へ攻撃を仕掛けた。
複数のミサイルを蜃気楼めがけて発射する。

「下がって!」

蜃気楼の前にランスロットが立ちはだかり、ジークフリートの爆撃を全て討ち落とすと、即座にジークフリートめがけ攻撃を仕掛けた。続いてトリスタンも上空からジークフリートを強襲したが、硬い装甲に傷一つつけられなかった。

『スザク!ジノ!シャルルの騎士でありながらよくも裏切ったな!!』

流れてきた声は子供のもの。

「この声、間違いない。V.V.だ」

C.C.が断言したことで、標的がジークフリート1騎に絞られ、周辺を調べていた機体もこの場所へ集まってきた。

『C.C.!!どうして裏切ったんだ!』
「最初に裏切ったのはお前だよV.V.。よくもわが友、マリアンヌを殺したな。お前は嘘は吐かないと言いながら、口にするのは嘘ばかり。ということは、お前の語る未来も嘘だと気づいただけだ。私は、もう夢物語に付き合うつもりは無い!」

ルルーシュを守りながら、C.C.はカレンと共にジークフリートの攻撃をかわし続けた。

「全機総力を挙げてジークフリートを叩け!」
「「「「承知!!」」」」」

藤堂と四聖剣も見事な連携でジークフリートに迫るが、強力な装甲に阻まれ傷を負わせることさえできない。
硬いだけではなく、強い。
子供の操縦とはとても思えない動きに、相手が子供ならば生け捕りにと考えていた思考を全員捨てた。
ゼロが脅威だと判断し、主力を引き連れてきた意味がようやく分かる。
やらなければやられる。そういう相手だった。

「相変わらず頑丈な機体だ。なあゼロ、ブラックリベリオンを思い出さないか?ビルの下敷きにしようと傷すらつかなかったこの機体に追われ、せめてお前だけでも生かすための賭けに出たんだったな。お前を降ろし、私一人ガウェインに乗り、ジークフリートと共に海底深くへ身を投げた」
「懐かしいな。ここが海上ならもう一度あの機体と心中してもらう所だ」
「本当にひどい男だよ、お前は。だが、そのぐらいでなければ止められないか」

海底深くに沈んだガウェインは水圧で大破したが、この機体は耐え切った。
同じことをした所で、乗っているのがV.V.の時点で意味が無い。
どうやってその装甲を破壊すればいいのか。
軽口を叩きながらもゼロとC.C.は打開策を考え続けていた。
オープンチャンネルで交わされるこの会話を聞いていた団員の中には、あの日この機体に追われるガウェインを見ていた者もいる。
つまりそれがブラックリベリオンでゼロが姿を消した理由。
現在の主力による総攻撃を掛けても打ち倒すことが出来ないほど強力な機体に追われ、戦場を離れたのだと多くの団員は理解した。
この機体があの日戦場にあったなら、もっと早くに黒の騎士団は敗北していただろう。

「でもいいねその案。C.C.、あの機体連れて火山の火口にでも突っ込んできてよ」

前にできたならできるでしょ?
流石に溶岩の中に落ちれば、倒せると思うんだよね。

「枢木スザク、お前死にたいのか?」
「何言ってるんだよ。僕がゼロを置いて死ぬわけ無いだろ?彼を守るのは僕だ」

冗談でもやめてよね!
スザクは不愉快そうに声を上げた。
器用にもジークフリートに激しい攻撃を仕掛けながら、だ。

「そうか、後でちゃんと殺してやるよ、枢木スザク」

やはりか。
この男の様子が何かおかしいと思っていたが、あの時ふっ切ったな。
嫌な方に。
原因は何だ?
ジノに親友の座を取られたことか?
ルルーシュが死にかけたことか?
何にせよ、この男は害虫になった。
邪魔だ。
だが、害虫は一人だけでは無かった。

「スザク、ゼロは私の妻となる人だ。だから私が守る!」
「ジノ!?何言ってるんだよ!ル・・・ゼロは僕の嫁だよ!」

ジノとスザクの発言にC.C.は苛立ちをこめて怒鳴った。

「このど阿呆共が!ゼロは私の嫁だ!」

ゼロは嫁発言をしながら攻防を繰り返す三人の言葉を、聞き間違いか?と一瞬考え、藤堂たちは困惑しながら、それでも手を抜くことなくジークフリートに攻め込んだ。

「・・・妻?嫁?私が?何の話だ」

大体私は男だ。男が嫁になるはず無いだろう。
ルルーシュは軽く困惑しながらも、ジークフリートからの執拗な攻撃をかわした。
体力が関係無いKMF戦で、逃げる事には定評のあるゼロをいくら狙った所で、そう簡単につかまるものではない。
捕まえるならエースクラス4騎以上で一気に掛からなければ無理だろう。
しかもこちらには絶対守護領域があり、紅蓮も護衛に居るのだ。

「あんたたち何勝手なこと言ってるのよ!ゼロを守るのは親衛隊隊長のこの私!だからゼロは私の嫁なの!とらないでよね!」

カレン、お前まで・・・。
だが、この時点でルルーシュはふと気がついた。
先ほどから4人はゼロを守る=嫁と言っている。
女性であるC.C.とカレンまで、男のゼロを嫁と言っているのだ。
隠語か、あるいはあの四人にだけ解る暗号の類か?
一般的な妻・嫁とは違う意味なのだろう。
全く紛らわしい。
何にせよ男である俺が嫁になれるはずは無いし、なるつもりもない。
ゼロのイメージが崩れるからこれ以上嫁発言はしないよう言って聞かせなければ。

『くっ!こんなに皆を惑わすなんて、やはりあの女の息子だね。これ以上邪魔なんてさせない!お前は今ここで死ね!!』
「黙れV.V.。今ここで母の仇、とらせてもらおう」

ジークフリートが回転し、周りの機体を弾き飛ばしながら蜃気楼に迫ってきた。
拙い。
迎撃しようとしているゼロ以外誰もがそう思った。
だがその時、突然放たれた砲撃で今まで傷一つつかなかったジークフリートが被弾し、煙を噴きながら大きくバランスを崩した。

『な!?この機体を知り尽くした攻撃、誰だ!』

視線の先にはKMF。
それはブリタニアの機体だった。

『これ以上貴方の好きにさせる訳にはいきません。そして!ゼロは私の嫁!』

やはりあなたはマリアンヌ様の仇討ちのために立ちあがったのですね!!

『この声!ジェレミアか!!』

ジェレミアの駆るKMFは着実にジークフリートにダメージを与えて行った。
自ら乗っていた機体。
弱点を熟知している攻撃だった。
ジークフリートはゼロを狙うのをやめて後退し、全機体と距離を取った。

「ジェレミア?オレンジか?」

お前まで害虫に加わるのか!
予想外の伏兵の登場にC.C.は一瞬動揺した。

「どうしてオレンジが!?だがこれは好機!一気に攻め込め!!」

ゼロの声に反応し、全員が一斉にジークフリートに飛びかかった。
ジェレミアの攻撃で駆動系をやられたジークフリートは間もなく墜落し、中から一人の子供が這い出してきた。
ゼロの言葉通り、長い金髪の少年。
KMFから降りたC.C.は歩きながら迷うことなくV.V.へ銃を向けた。
1発、2発。
C.C.の放った弾丸はV.V.の額を撃ち抜いた。
動きを止めたV.V.を確認した後、辺りを見回し、大きな声で叫んだ。

「私はC.C.。今この時より再び私が響主となる。ここにいる者たちに手を出すな!」

その言葉に、隠れていた研究員や子供たちがC.C.の傍まで歩み寄り、そして平伏した。口々に「C.C.様だ」「お戻りになられたのだ」「よく帰ってきてくださいました」と、嬉しそうな笑顔で彼らは言っていた。

「ああ、戻った。もうV.V.の好きにはさせない」

ぴくり、とV.V.の体が動いたのを目で確認し、C.C.は再び発砲した。
再び頭部を撃ちぬかれ、V.V.は動きを止めた。

「V.V.は私欲にまみれ、ギアスを悪用し続けた。同じ神の使徒たる私が神に代わりこの者を裁く」

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